彼と彼女と彼の事情
騒ぎを聞き付けた郁人が、血相を変えて病室からやってきた。 


「何してんだ、てめぇ!ふざけんな!」


と、今にも掴みかかりそうな勢いで彼女に詰め寄った。


「――ちょっと待って!やめて、郁人!」


それを必死で抑え、一言だけ、彼女に伝えた。 



「ごめんなさい。私は、郁人の彼女でもないのに誤解させるような真似しちゃって。私は、郁人とは関係ないから……本当に気にしないでね。
郁人、今日は帰るね。お大事に……」


と、告げ、逃げるようにその場を立ち去った。



「奈緒、待てよ―!」


という郁人の言葉には、振り向かずに……。





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