彼と彼女と彼の事情
今日に限って、仕事場から直行してしまったから――。


本当は、誰の目にも触れたくなかったのだけれど……。


仕方なく、重たい足取りのまま、電車に乗り込んだ。


初老の男性と子連れの母親との間に腰を下ろし、さっきのやり取りを思い返したけれど……



冷静になればなるほど、ますます胸が締め付けられるようだった。



彼女の真剣な眼差しから、郁人への想いが強く感じられ、知らぬ間に傷つけていたことに胸が痛んだ。



何、やってるんだろう……私は。



電車の揺れに身を任せながら、車窓から見える景色をぼんやりと眺めた。



たちまち、視界が涙で霞んできた――…。 




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