彼と彼女と彼の事情
「隼人……」


その先の言葉が見つからなかった。


目の前にいる隼人に、気の利いた言葉の一つや二つも掛けてやることもできない自分が歯痒い。 


「奈緒はさぁ、弁護士って仕事はどんな仕事だと思う?」


低音で静かな声が、部屋の中に響いた。


「そりゃあ、みんなを助ける仕事かな?」


「そうだよな。困っている人を助けるのが、俺の仕事!」


―――…?


隼人が何を言いたいのか分からず、黙ってその先の言葉を待った。


「『弁護士法第一条』に、弁護士の使命について書かれているんだ」


「使命!?」


「あぁ。『弁護士は基本的人権を擁護し、社会主義を実現することを使命とする』ってね。これが、まさに俺たち弁護士のなすべきこと」


「はぁ……」


難しい話に、首を傾げてしまう。




< 211 / 300 >

この作品をシェア

pagetop