彼と彼女と彼の事情
〈17〉それぞれの道
スロープを歩く郁人の後ろ姿を、私は見えなくなるまで目で追った。
自動ドアが開き、中に入る郁人を見届けると、すぐさまバックに手を伸ばし、封筒を探した。
――…あった。
封筒の表面は何も書かれていなかった。
裏返してみると、右下に『隼人』とだけ書かれていた。
糊付けされた封筒をなるべく破かぬよう、ゆっくりと開いた。
中には、便箋が二枚入っていた。
『奈緒へ』という書き出しで始まった手紙。
性格を表すように、止め・撥ねまできちんとしている角張った文字。
昔と変わらない几帳面さがなんだか懐かしくもあり、胸にグッと迫ってくる。