彼と彼女と彼の事情
「奈緒ちゃん、遅いよ!
郁、さっきからソワソワして大変だったんだから」
「――ムラさん!
ちょっとやめて下さいよ!」
「アハハ……照れなくていいよ。郁は、本当に面白れなぁ」
「もう、ほんと勘弁して下さいよ!」
「まぁ、いいじゃねぇか!こうして奈緒ちゃんが来てくれたんだから」
ムラさんと郁人のやり取りを見ていると、なんだか微笑ましい。
ちょっぴり気恥ずかしいけど、つい顔が綻んじゃうから不思議。
「来てくれてありがとうな」
慌ててムラさんの言葉を制した郁人は、優しい瞳をこちらに向けた。
そんな郁人に、私もニコッと微笑み返した。