彼と彼女と彼の事情
ふと時計を見ると、だいぶ時間が過ぎていたことに気が付いた。


「あっ、もうこんな時間!私、帰らなきゃ!」


「駅まで送るよ」


その場の空気を変えるように慌てて後片付けをし、郁人のバイクで駅まで送ってもらった。 


「今日はありがとうね」


「おぅ!じゃ、またな」


ヘルメットを被った郁人を確認して、改札に向かった。


その日の晩、私が帰ったあとに、二人の関係を誤解した隼人は、執拗なまでに郁人に問い詰めたらしい。


『お前ら、付き合ってるわけじゃねーよな?』


『あぁ』


『じゃあ、俺が奈緒と付き合っても問題ねぇよな?』

のちに、知ったことだけれど…… 


『あのときの兄貴は、珍しくすげぇ必死だったよ。あんな動揺した顔見るのも、初めてだったよ!』


いつだったか、そんなことを郁人の口から聞いたことがある。




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