彼と彼女と彼の事情


「あのさぁ、そんなに笑わないでくれる?俺だって傷付くよ。
これ、雑誌にも掲載されたし、まだ日本未入荷の商品なんだぜ!
しかも、スーパーモデルがかけてるんだ!すごいと思わない?」


「へぇ、そうなんだ」


「おまけにさ、在庫が一つしかないところを店長に無理を言って譲ってもらったんだからさぁ。……つか、マジで頼むよ」 


「そうなんだ!
そんなこと聞いたら急に郁人が格好良く見えてきたよ!」


と、言ったと同時に、頭をゴツンとされた。 


「――…痛ったいなぁ。
レディに向かって、何すんのよ!」


「おまえがレディかよ?だったら俺はジェントルマン以上だな」


お互いに笑った。


久しぶりに二人で笑った。 

久しぶりの再会が、久しぶりに感じられないのは、こうした郁人の人柄からだろう。 


< 62 / 300 >

この作品をシェア

pagetop