彼と彼女と彼の事情
本日のメイン料理を堪能して、あとはデザートとコーヒーを待つばかり……
というときに、突然、郁人の表情が変わった。
それまでと異なり、姿勢を正した郁人は口元をキュッと締め、真顔になった。
静かに、そして、慎重に言葉を選ぶように話し出した――。
「奈緒はさぁ……今でも兄貴のこと好き?」
「えっ……」
思いも寄らぬ質問に、そのあとの言葉が続かなかった。
「いや、どうなのかなぁと思ってさ。
やっぱり、まだ兄貴のこと忘れられない?」