彼と彼女と彼の事情


本日のメイン料理を堪能して、あとはデザートとコーヒーを待つばかり……


というときに、突然、郁人の表情が変わった。


それまでと異なり、姿勢を正した郁人は口元をキュッと締め、真顔になった。


静かに、そして、慎重に言葉を選ぶように話し出した――。 


「奈緒はさぁ……今でも兄貴のこと好き?」
 

「えっ……」


思いも寄らぬ質問に、そのあとの言葉が続かなかった。 

「いや、どうなのかなぁと思ってさ。
やっぱり、まだ兄貴のこと忘れられない?」



< 70 / 300 >

この作品をシェア

pagetop