彼と彼女と彼の事情
郁人の謝る理由が分からない。
郁人に謝られるような覚えはない。
「どうして、郁人が謝るの?」
「いや……奈緒には可哀想なことをしたから」
「可哀想なことって……。
だって、それは隼人のことだもん。郁人には関係ないでしょ?」
いくら兄弟とはいえ、弟の郁人が謝る理由が見つからない。
暫し、押し黙ったままの郁人。
グラスに注がれた水を一気に飲み干し、テーブルにカタンと置くと、意を決したように話し始めた。
「奈緒さぁ、俺んち来たことあったよな?」
「うん」