彼と彼女と彼の事情


郁人の謝る理由が分からない。


郁人に謝られるような覚えはない。


「どうして、郁人が謝るの?」


「いや……奈緒には可哀想なことをしたから」


「可哀想なことって……。
だって、それは隼人のことだもん。郁人には関係ないでしょ?」


いくら兄弟とはいえ、弟の郁人が謝る理由が見つからない。


暫し、押し黙ったままの郁人。


グラスに注がれた水を一気に飲み干し、テーブルにカタンと置くと、意を決したように話し始めた。


「奈緒さぁ、俺んち来たことあったよな?」


「うん」



< 73 / 300 >

この作品をシェア

pagetop