彼と彼女と彼の事情
「そっか。奈緒、しっかりしろよ!
なんかあったらいつでも俺に連絡してこいよ」
「うん。分かった」
蚊の鳴くような、心許ない返事をした。
週末の金曜日ということもあり、駅構内は人でごった返していた。
おまけに、この雨で話し声も聞き取りにくい。
落ち着いて話すのも、ままならない状況だった。
「そろそろ行くわ。
じゃあ、またな!」
郁人は背を向け、歩きだした。
人混みの中へ消え去ろうする後ろ姿を、私はただ無心で見つめていた。