彼と彼女と彼の事情
涙で霞んだ視界の先に、今、ここを去ったはずの彼がいた。
どうして……?
どうして戻ってきたの……?
「奈緒!俺、やっぱ、今日は奈緒の家まで送って行くよ」
「えっ、でも……」
「いいから、いいから!
ここからならタクシーで2000円もあれば、お釣りが来るだろう?
さっ、行こう!」
郁人に背中を押され、前へ進もうとするも……
体がよろけそうになる。
そんな私の体を支えるように肩に手を回した郁人は、タクシー乗り場へと向かった。