彼と彼女と彼の事情
やっぱり、郁人の気を悪くさせてしまったかな。
そうだよね。
こんなのまで捨てずに、まだ取ってあるなんて……。
不安になりつつも、私は着替えを済ませた。
暖房で暖められたリビングに戻ると、郁人はまじまじとチェストの上に飾られた二人の写真を眺めていた。
ドキッとした。
なんとなく、バツが悪くて……。
別れたというのに、いまだに隼人のことを引きずっているのがありありと分かるようで……。
堪らなく恥ずかしくなった。
でも、郁人はそのことには何も触れないでいるから私も素知らぬ顔でコーヒーを煎れた。
静まりかえった部屋にコポコポ…と、コーヒーの煎れる音だけがする。
次第に、部屋の中はコーヒー豆の香ばしい薫りに包まれていった。