彼と彼女と彼の事情
煎れたてのコーヒーをカップに注ぎ、トレイの上には砂糖とミルクを用意した。
私はミルクだけ入れたカフェオレが好みだけど、郁人はミルクも砂糖も入れる甘党だった。
「お待たせ」
カップを差し出すと、すぐさま、郁人が反応した。
「さすがだな!
俺の好み、ちゃんと覚えてたんだ」
「うん」と、笑顔を返した。
ふーっと冷ましながら、私もカップに口をつけた。
「奈緒の淹れたコーヒー、うまいな。
俺さぁ、酒も好きだけど、甘いスイーツも大好きなんだよね。
この通り、女の子の範囲もかなり広いけど」
親指を立て、自分に向けた。
「まぁ確かに女好きだよね、郁人は」
「うるせぇ、バーカ!」
郁人といると、さっきまでの地獄のような時間が、夢だったかのように感じる。
こんなにも隼人のモノで溢れた部屋に二人でいるというのに。
なんだか、とても不思議な気分だった。