彼と彼女と彼の事情
カフェオレを口にし、落ち着きを取り戻した頃、突然、郁人が話しだした。
「奈緒、さっきは悪かったな。ごめんな」
「……えっ?」
「あんなこと言っちゃってさ。
でも、黙っておくことなんてできなかったんだ。
奈緒がどんだけ傷つくかも分かってたけど……」
「郁人……」
「電話で話してても、兄貴のことをすごく気にしているのは分かってた。
だから、見ていらんなくてさ。それで、本当のことを言わなきゃ!と思ったんだ
でも、逆に奈緒のことを傷つけた。本当に悪かったと思ってる」
慎重に言葉を選ぶように、私に静かに語り掛ける郁人。
当事者でもないのに、郁人の方が苦しんでいるように見えた。