彼と彼女と彼の事情
カフェオレのカップに手を添えながら、私は黙って郁人の話を聞いた。
「なんかさぁ、奈緒がすげぇ無理してるから見ていらんなかったんだよ、俺」
「私、そんなに無理してないよ」
「いや、分かるんだって!
奈緒はかなり我慢してた。俺の前ですら、涙を見せないようにしてたんだから」
「なんで、そんなこと……」
「ずっと近くで、奈緒のことを見てきたからだよ。
奈緒の考えてることくらい、だいたい分かるよ」
「………」
言葉を覆い被せるように、郁人はミルクと砂糖がたっぷりと入ったコーヒーをズズズッと飲み干した。
「郁人……私、郁人には感謝してるんだよ。本当に。
正直、さっきは驚いて言葉にならなかったけど……」
「奈緒、悪りい……。ほんとに。
俺が奈緒のこと、傷付けたかも」
「違うんだって!
郁人にはっきり言ってもらってよかったよ。理由も分かんないまま、半年も引きずってたんだから。
馬鹿みたいでしよ、私?」