彼と彼女と彼の事情


――と、


突然、ガシッと郁人に腕を掴まれ、すっぽりと彼の胸の中に収まった。 


「…ちょ、ちょっと!郁人?どうしたの?……なんで?」


「いいから!」 


ドクン、ドクン……


激しく高鳴る心臓の音が抱き締められた胸の中から聞こえてくる。


これは、郁人の音……? 

そっと見上げると、優しそうな、それでいて慈悲深い顔をした郁人が私を見つめていた。 


「奈緒、辛かったよな。ごめんな。こんな酷い目に遭わせてしまって……」


「そんな……」


「俺じゃダメか?俺じゃ、兄貴の代わりにはなれないか?」


「郁人……」




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