彼と彼女と彼の事情
「本当は、あの日……
兄貴が合宿から帰ってきた日、奈緒に告白するつもりだったんだ。
でも、タイミング逃してさ……」
郁人……何を言ってるの?
自分の言ってること、分かってる?
「そうしているうちに、兄貴と付き合うことになってて……。
でも、それで奈緒が幸せなら俺は手を引こうと思ってた。
でも、こんなことなら……畜生!」
ギュッと拳を握り締めた郁人は、これまでに見せたことのないような、悔しさを滲ませた真剣な表情をした。
言葉に詰まった。
あまりに突然の話で、頭が回らない。
今、郁人が言ったことって……。
気の利いたことを言えるはずもなくて……。
何と答えたらよいのか分からないまま、私は郁人のそばから離れることができなかった――…。