ワイルドで行こう
 
 フェンスのペイントが、おそらく看板代わり。店を取り囲んでいるフェンスに辿り着き、琴子はそこを超える前にそっと覗いてみた。
 奥に二階建ての事務所らしき建物、その隣にシャッターがあるガレージが二つ。ひとつは開いていて如何にも整備ガレージと伺える設備と車が数台入っている。その隣のガレージはシャッターが閉まっていてわからない。
 建物前にはガソリンスタンドのように広めのコンクリの敷地になっていて、そこで彼が車一台と向き合っていた。
 いつもの紺色ジャケット。今は夏服なのか半袖、その袖にあのワッペン。そしていつもと違うのは、デニムパンツではなく上着とお揃いの作業ズボンを履いている姿だった。上下お揃いの作業着。本当に整備士を思わせる姿。
「タキ、帰るぞ。お疲れ」
 彼と同じ上下紺色の作業着姿の男性が見えた。若い男性ばかりかと思ったら、琴子の父親ぐらいの年齢かと思わせる壮年の男性がいる。少し意外に思った。しかも如何にも『職人気質』を思わせる強面のおじ様。
「ああ、お疲れさん。あとは俺がやっておくよ」
「気前良いねえ。女を待っているヤツは」
 おじさんがニヤリと笑う。そして琴子はドッキリ、彼が琴子を待っているだなんて……既に従業員に知られているみたいだから。
「うっせいな。せっかく早く閉めるんだから、とっとと帰って孫のところに行けよ。たまには娘さん家族に親父からサービスしろよな」
「余計なお世話だ」
 孫だって。親同然と言った年齢らしい。琴子はますます驚く――。
「お前、惚れたら一直線になるんだから、夢中になりすぎるなよ。まあ、店終わってからくるような女で安心したわ。お前の女気取りで営業中にその面でくるような女は反対しようと思っていたけどな」
「……彼女の方がしっかりしているもんでね」
 琴子はまたドッキリ。やはりこの気構えで正解だったと安堵のため息をひっそりついた。
 社長さんは彼かもしれないけれど、やはり年配の目上の人がいるなら、あの男性が若い経営者のお目付、気を配っておいて正解だったと。
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