ワイルドで行こう
二階が俺の自宅な。
英児に手を引かれ、琴子は『龍星轟』の店内兼事務室へと連れて行かれた。
そんなに広くはない店内。接客をするための綺麗なソファーやテーブルが二セット。カタログがたくさん展示されている。店のガラス壁には、いろいろなカー商品が展示されている棚も。
そして奥にはノートパソコン数台を置いているスチールデスク。事務所スペースと言ったところのよう。
「ここでお客様と話し合うのね」
「ああ。車の部品、内装のインテリア、うちでセレクトしているカー用品。いろいろな」
「車のセレクトショップなのね」
「そうとも言うかもな。とにかくさ、いろいろ探して試すのが好きだからな『俺達』。それを客にも勧めているだけ」
――『俺達』という言い方が、彼らしいと琴子はまた微笑む。先ほどのおじ様を含め、きっと彼に負けない車好きが集まっているお店なのだろうと想像できた。
「二階が俺の自宅な」
事務所デスクが並んでいる向こう、壁際にドアがある。そこを英児が開けると、二階に向かう階段があった。
この造りだと、最初から店舗兼自宅を要望して建てたとしか思えなかった。
その階段を上がると、本当に玄関のようなドアがある。そこを彼が鍵で開ける。
「わるい。勝手にあがって良いから。俺、店を閉めてくるからここで待っていてくれ」
「うん、わかった」
琴子を玄関に入れると、英児は急ぐようにして階段を下りていく。
琴子もサンダルを脱いで、そのまま先にあるドアを開けた。勿論そこはリビングで、テーブルと小さなソファーとテレビ。そして対面式のキッチン。ごくごく普通で、最小限のインテリア。そしてやっぱり『男の匂い』に溢れていた。
英児の部屋らしく煙草の匂いは勿論、やっぱりあの匂いも。
ソファーの背には、いつものデニムパンツが放ってあったり。男らしい暮らしぶりの部屋。
だが、ひとつだけ。ものすごい違和感が。リビングなのに、大きなベッドがドンと置かれている。しかもダブルベッド……。一人暮らしのはずなのにダブルベッド。
琴子の中に、ふとしたものが浮かぶのだが。