ワイルドで行こう
ぐったりと横たわる琴子の上にも、息荒く果てた男が重なっていた。
くたくたに果てた女がご馳走のはずの男が、今日は自分がくたくたになって琴子の胸元で休んでいる。
それでもその手は乳房を離さず、口先はまったく動かない琴子の唇を時折吸う。
幾分かしても動かない女が眠ったのかと心配する眼差し。
「おい、琴子」
頬を軽くはたかれ、ぼんやり薄目だった琴子は、ぱっちりと目を開ける。
「びっくりさせるなよ」
ほっとした彼の顔。それだけ責めたくせに。その文句ももう言えない。
やっと動いた男がのっそりとベッドサイドのナイトテーブルへ手を伸ばす。そこに置いてある煙草を取ると、口にくわえライターで火をつけた。
暗がりにぽっと灯る赤い火、そして立ち上る煙。新しい煙草の匂いを嗅いで、琴子もやっと起きあがる。
英児が枕を背にくつろいだ隣に、琴子も寄り添う。煙草を吸う彼にもたれると、彼が長い腕で琴子の肩を抱いて寄せてくれる。
ふっと煙を吐いて一息吐く彼が、暗がりの部屋で恋人を片腕に急に話し始めた。
「この店。俺の母親がもう長くないとわかった頃、建てたんだ。俺が三十になった頃な」
琴子の目を見ず、やはり英児は空港がある海へと遠く視線を馳せている。
「俺さ。母ちゃんがけっこう歳いってから生まれたから、やっぱ、母ちゃんが末っ子末っ子てすごく可愛がってくれたんだよ」
「末っ子てそうらしいわね」
「兄貴二人は地道で真面目なリーマンで、ちゃんと嫁さんに子供がいたから安心していたけどさ。俺のことは残していくの心配だって。そんな時、俺、店を持とうとしていたから、母ちゃんがけっこうな金を出してくれてさ……」
それがこの龍星轟とのこと。