ワイルドで行こう
「俺が最後に選んだのは、彼女じゃなく母ちゃんだった。女は去って、母ちゃんは逝った。兄貴と親父はもう既に出来上がった家族で暮らしていて、母ちゃん子だった俺には入る隙はもうなかった」
――だから俺は独りぼっち。
やっと彼が言った一言の真意を知った琴子。
「もう言わないで。私、貴方といる。これからも」
琴子から彼の首に抱きついて、彼の黒髪の頭を抱き寄せた。琴子の乳房の胸元へ。そこにぎゅっと琴子は英児を抱きしめる。
そこで、彼がふっと笑ったのを見た。
「ベッド、新しく変えるから」
彼から琴子を抱き返してきた。胸元の彼を見下ろし、琴子は驚く。でも英児は笑っていた。
「一人で暮らしてきたから、ワンルームのようにしてリビングにベッドを置いてしまったんだけど。琴子とのベッドが来たら、そっちの寝室にちゃんと置くようにする」
「いいのよ。ここでも。貴方がそれで暮らしやすいなら」
「いや、だってさ。琴子のお母さんにも、いつかここに遊びに来て欲しいから。娘をあんあんさせているベッドは隠すようにしたほうがいいだろ」
「なに、それっ」
母にそんな目で見られるのは、流石に琴子も耳が熱くなるほど恥ずかしい。でも、そんな。いつか母をここにと考えてくれているだなんて。
嬉しくて、今度は彼の胸に抱きついた。
「俺も琴子と一緒で、前のこと忘れてなにもかも新しくするな」
「……うん」
微笑み返したが、少しだけ躊躇った琴子。
本当に忘れてしまって良いことだったのだろうか。そう感じたから。
でも英児はとっても安らいだ顔で微笑んでくれる。ホッとした顔で。