ワイルドで行こう

 そして琴子は知ってしまう。
 リビングにベッドがあったのは、一人きりの寝室で眠るのが寂しかったから。枕がたくさんあるのはひとつだと寂しい、ふたつだと彼女と暮らすはずだったことを思い出してしまうから。だから、ベッドヘッドが埋まるぐらいにわからないぐらい増やした。それが丁度三つで埋まる個数。そして。
 ――私の肌をすぐに探すのは、あたたかみを求めているからかも。
 初めてそう思った。
 人肌恋しくて。やっと俺を暖めてくれる体温。だから琴子が目の前にいると、つい肌を探してしまう。
 触りまくりたいんじゃない。人肌に触れて、安心したいだけ。俺は独りぼっちじゃないって。
 そんな彼を一人きりにしたくない。
「英児、英児」
「なんだよ、琴子。もういいから」
 あの英児が困るぐらいに抱きついて、琴子は暫く彼を離さなかった。

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