ワイルドで行こう

 夏の日射しが容赦なく降り注ぐ龍星轟の店先には、今日もピカピカの車が並んでいる。
 紺の作業服を着た男達が夏の熱気がこもるガレージや直射日光の店先で、黙々と作業に打ち込む姿。
 だが琴子は店先を避けた道を選び、今日は店の裏側へと辿り着く。そこから事務所裏と英児の自宅階段がある通路へはいる裏口へ、そのドアを開けて到着。
 暗いままの店舗兼事務所裏の通路。明かりが差し込んでいるのは、英児の二階自宅と店舗をつないでいるドア。そのドアが開いているので琴子はそっと覗く。
 事務員の男性がノートパソコンに向かっている。そして店のガラス壁の向こうで、車を洗車している作業服姿の英児を見つける。だがその英児を見つけ、一人ひっそりと微笑んで気を緩めていたら、そこで事務所のデスクに座っている作業服姿の男と目が合った。
 あのおじ様だった。半袖の紺作業着姿、腕を組んでデスクで書類を眺めているところ。
「おはようございます。お邪魔致します」
 こんな時間に訪ねてきてしまったので、あからさまなしかめ面を見せられる。『わかりやすい親父だよ』と英児から聞かされているから、琴子も心構えは出来ているのだが。しかし、そのおじ様が席を立って、こちらに来てしまう。
「タキ、呼ぶか」
 と、とんでもないっ。緊張で言葉にならず、琴子は首を振るだけ。
「いえ。キッチンのお掃除に来たんです。あまり使っていないみたいだったので。彼にはお昼まで知らせないでください」
 男一人暮らし、ほぼ外食という英児の生活。キッチンも最低限使えるだけのものしかなかったので、先週はものを揃えるのに大変だった。
「それ。なんだ」
 おじ様が、琴子がもっている紙袋とレジ袋を指した。
「あの、お昼に冷たいうどんか素麺でもと思って。家で沢山余って困っていたので、母にもたされました」
 ふうん。と、おじ様が顎をさすり、琴子を見下ろしている。

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