ワイルドで行こう

「つけあわせは」
 なんで、そんなに聞くの。琴子は眉をひそめるが、笑顔を保って。
「穴子と、茄子と、ユキノシタの天ぷらです」
「ユキノシタだあ?」
「庭にあって、私の家ではよく天ぷらにするんですけど」
「庭から取ってきただとー?」
 いちいち顔をしかめて反応するので、琴子は何を言われるのかとドキドキしてしまうのだが。
「いいな、それ。俺も食いたい」
 はい? 琴子は目を丸くし、すぐに返答は出来なかった。
「昼飯になったら、二階まで取りに行くな。武智ー、俺の今日の昼休みいつだ」
 事務員の『武智さん』に確認を取るおじ様。
「矢野じいの今日のシフトは、十二時半からかな」
 バインダーのシフト表を見た彼が、なんだかちょっと笑いを堪えながら答えている。
「ということだ。その頃、行くな」
「は、はい」
 それだけ言うと『矢野さん』は、背を向け店の外に出て行ってしまった。武智さんだけがクスクスと笑っている。だけど彼も琴子には話しかけてはこない。だから、琴子も邪魔にならないようそっと二階に上がった。
 二階に上がって、琴子はバッグから鍵を出す。『合い鍵』だった。英児がすぐに作ってくれた。それで彼の自宅に入る。
 入ってすぐに、琴子はまだ終わっていないキッチンの整理に掃除をする。先週のうちにだいぶ琴子が使いやすいように道具も材料も揃えた。あとは使い勝手。それを済ませるとすぐにお昼時間が目の前。
 英児に内緒で来たから、英児のシフトがわからない。揚げたてじゃなくてもお昼があるのは喜んでくれるだろうと思ってはいたが、それでも矢野さんに頼まれてしまったのでその時間に合わせて調理開始。

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