ワイルドで行こう

「暑い~」
 キッチンの窓や、部屋中の窓を全開にしても暑い夏の日。
 クーラーもあるけど、この季節、すぐに冷房病になるので、必要以上なるべく当たらないようにしている。それでも天ぷらをあげ、大鍋に湯を沸かしての調理は汗だくになる。
 料理をしながら、琴子は『何故、急に食べたいなんて』と考えていたが、どうにもわからないまま。
 英児の店の外周には、土地を拓く時に残してもらえたのか大きな団栗の木や百日紅の木がある。団栗の木陰から時折ざわざわとした風が来て、少しだけ涼しくしてくれる。その側で桃色の百日紅の花も揺れていた。遠く蝉の声。どこか昔懐かしい風の音と風情が暑さを和らげる。元の土地の持ち主が植えていたのだろうか。
 天ぷらを揚げ終わった頃だった。
「琴子!」
 リビングに作業着姿の英児が現れた。
「なんだよ。来ているなら来ていると言ってくれてもいいんだからな。てっきりまた夕方に来るのかと」
 あ、結局。教えてくれたんだなと琴子は思った。それとも武智さんが教えたのだろうか。
「お昼になったらここに戻ってくることわかっていたから。言わないでとお願いしたのよ」
 だが英児はとても嬉しそうに出迎えてくれる。彼らしく、琴子が何をしていようがすぐに駆け寄ってきてすぐに力一杯抱きしめてくれる。そして、キスも。琴子が何をしていても……。
「やだ、もう。料理中」
 でも琴子も。いつもあっという間に溶けあってしまう。菜箸を手探りでどこかに置くと、琴子も英児の背中に抱きついて思いきり唇を愛した。そして英児の手も、もう『お馴染み』。ポロシャツの下からするする入って、ランジェリーの下に潜ってあっという間に柔らかく乳房を揉むのも。
 互いの身体から湿った熱を感じる。真夏の汗をかいた身体。そして肌も汗でじっとり湿っている。それでも英児の汗で濡れた黒髪の生え際に琴子はキスをして、そして英児は汗ばむ琴子の肌を撫でている。
 今日も二人で匂いを嗅ぎ合って、それで再会を噛みしめる。窓からざざざと団栗木陰の涼しい風。いつまでも離れず口づけ、熱くなる一方の二人を冷ましてくれているのか、諫めてくれているのか。

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