ワイルドで行こう
シルビアのワックスがけも終わると、また店長チェック。でももう英児の眼差しも柔らかかった。
「まあ、最初はこんなものか。有り難う、琴子」
「でも。相談もせずに、今日は勝手にやりたがってごめんなさい」
最初、嫌な思いをさせたことを謝った。でも英児もそっと優しい微笑みのまま首を振るだけ。
矢野さんも椅子から立ち上がってひと眺め。
「最初のスカイラインに比べたら、だいぶマシになった」
「矢野さんのおかげです。有り難うございました」
頭を下げる琴子に、矢野さんも照れてまた帽子のつばで顔を隠す。琴子はクスリと笑う。父子じゃないのに、本当に親子のように仕草も生き方もそっくりで不思議な師弟の二人。
そんな矢野さんが、シルビアをじっくり眺めている英児を呼んだ。
「おい、英児」
呼ばれて振り向いた英児へ、矢野さんが何かを投げた。
「もう今日は店長担当の仕事、終わったんだろ」
英児が片手でパシリと受け取ったのは、シルビアのキーだった。
「お前達、休みが合わないんだろ。たまには彼女を週末ドライブにでもつれていってやんな。店閉め、俺がやっておくから」
「え、いいのかよ。矢野じい」
戸惑う英児だったが、矢野さんがまたニンマリ、意味深な笑みを見せる。
「おう。俺、気に入ったわ」
何が。と、英児。そして今度、矢野さんの視線が琴子へと向かってきた。
「この姉ちゃん、やる気あるわ。車屋のカミさんになれるぞ。英児、嫁にしな」
『えー!』、英児と揃って飛び上がりそうになった。