ワイルドで行こう
なんて大胆に直結を望む発言を! ある意味、英児には敏感なところなのに。彼の親父同然の男はそこへバシッと切り込んでくる。
もう英児も琴子も呆然。しかも互いの顔を見ることが出来ないほど、なんだか照れ合ってしまい……。だが矢野さんは、そんな二人を置いて、ガレージへと行ってしまった。
やっと二人で顔を見合わせる。
「せっかくだから、行くか」
「いいの? 英児さんは乗っても大丈夫なの」
あの優しい目尻の笑みで、英児が助手席のドアを開けてくれる。
「琴子が綺麗にしてくれたから、走らせないと勿体ないだろ。車は走らせて車なんだから。琴子が一緒なら大丈夫だ、きっと」
彼の最初の相棒。しかも曰く付きの相棒。その助手席に乗れる。琴子もにっこり微笑んで、その車に乗り込む。
夏の夕暮れ、港町へと英児のシルビアが風を切って走り抜ける。
空港を抜け、フェリーが停泊する港を抜け、夕の港町を英児は海沿いにずっと走る。
その間。何故か二人は微笑み合いながらも無言だった。
でも琴子にはこの嬉しさと、そしてもどかしさが混ざり合った奇妙なムードの根元をきちんと見つけていた。それは英児も。
「矢野じいが言ったことだけれど」
――嫁にしろ。二人の間で言葉にせずとも浮かんだだろう言葉。
「私、ずっと英児といる。貴方の部屋に通って、ずっと愛し合うの。これからもずっとよ」
夕の海をまっすぐに見つめ、彼の顔を見なかった。彼が結婚を意識してしまっていたから、素知らぬふりをする。だけれど琴子は『ただ一緒にいれたらいいの』と、それだけはっきりと告げる。結婚なんて言葉は、私たちには関係ない。
夕暮れの運転席、彼の黒髪もふわりと潮風になびいている。サングラスの奥の目は見えにくかった。でも彼は静かに笑っている。
全開の窓には、琴子の黒髪を強くなびかせる潮風。隣には夕の日射し除けに茶色のサングラスをかけた作業着姿の英児。そして琴子も今日は龍星轟のワッペンがあるお揃いの上着を羽織ったまま、隣にいる。
龍星轟のシルビア。運転席には龍星轟の店長。その隣の助手席にはお揃いの上着を羽織っている彼女。そこまで私たちは揃うことが出来た。
今はそれでいいじゃない。