ワイルドで行こう
15.これで俺の女だって、誰に言っても良い
盆を過ぎれば少しは涼しくなるだろうが、それはもう少し先のこと。
朝から一生懸命な蝉にせかされるようにして、琴子は今日もここにやってくる。
「おはようございます。お疲れ様でーす」
店の裏から、事務所後ろ二階行きの階段がある通路から挨拶をする。
仕事をしている彼等から、返事がある時もあれば、ない時もある。そして土曜の午前中、滝田店長の彼女がやってくるのはもう恒例。
二階自宅への階段を上がろうとしたその時、事務所ドアから矢野さんが顔を出した。
「おっす、琴子」
「はい。おはようございます」
琴子はにっこり。おじ様に笑顔を返す。この土曜の午前中に琴子が来たと知ったら、すっ飛んでくるのも恒例?
「今日の昼飯なに」
「暑いから、冷やし中華です」
やった。と、ガッツポーズの矢野さん。
「今日も頼むわ~、琴子ちゃん」
「琴子さーん、俺も食べたーい」
ドアの向こうから姿見えない武智さんの声も届いた。
「はーい、了解です」
琴子の返答に『お願いしますー』と声だけの返事。
「整備の清家さんと兵藤さんにも聞いておいてください。矢野さん、食費の集金をお願いしても良いですか」
「おう、任せろや。希望者のシフトも持っていくな」
いつの間にか、こんな事も恒例に。毎回作るようになっているが、食べる食べないはそれぞれ。でもそれで何週かやってきた。
英児も最初は『無理しなくて良いから』と言ってくれたが、それでなんとか店の雰囲気が良くなっているらしく、今はやってくれともやるなとも言わない。
「なあなあ、琴子。それはなんだ」
話がまとまって、さあやっと二階へと思ったのに、まだ矢野さんに呼び止められる。矢野さんが気にしているのは、琴子が手に提げている箱。