ワイルドで行こう
「これですか。エスプレッソマシンです。自分で買ったはいいけれど、案外自分一人自宅ではあんまり使わなかったので、こちらならどうかなと思って」
『えー、俺、それ使ってみたい!』
またドアの向こうから武智さんの声だけが届いた。
「あとで事務所休憩室に設置してみますね」
「それ、難しいのか? なあ、なあ、琴子。どうやって使うんだよ、なあなあ」
「ええっと。簡単ですから」
エスプレッソマシンの箱を食い入るように見る矢野さんに苦笑い。もう二階に上がってもいいですか。そう言おうとした時だった。
「おい、じじい専務。なにダベってんだよ」
ドアから、作業着の男性が現れる。矢野さんの作業着の襟首がぐいっと引っ張られた。
「おう、店長。彼女が来たぞ」
誤魔化し笑顔の矢野さんだが、英児はキャップつばの影から矢野さんを睨んでいる。
「もうすぐ専務の客がくる時間だろ。あっちで準備」
「はいはいはい」
「おい、おっさん。俺がガキの時になんて叱ってくれたっけなあ。返事は?」
「はい、すみませんでした。社長さん」
ぶすっとして矢野さんが行ってしまった。帽子のつばを降ろし睨んだ目元を隠すと、ふうっと英児が溜息。でも、次につばが上がると琴子をにっこり見つめてくれた。