ワイルドで行こう

 寝室は二人で相談しながらコーディネイトした。ベッドヘッドにはあのクッションにもなりそうな枕を、今度は四つも並べている。そして足下には英児が楽しむ小型テレビとDVDプレイヤーのラックも設置。暗がりの中、彼は眠る琴子の隣で、よく録画撮りしたレース番組をみて楽しんでいる。
 今日は、このベッドのシーツをまた新しく替える。だから、それを楽しみにしてきたのだった。
 英児と琴子は仕事が終わる時間に合わせ、カフェなどで落ち合う。その後、あちこち買い物に出かけたりもする。その買い物で、英児と一緒に洗い替えのシーツを選んだ。たいていは琴子が『これ良いわね』と手にとって眺め、英児がよほどに嫌でなければ『うん、いいな。この色も良い』と一緒に眺めてくれる。今日の夜は、英児と選んだ新しいシーツで過ごす。今度は熱帯夜を少しでも涼しく感じられるようにと、深いロイヤルブルーで揃えた。薄いジョーゼットのベッドカバーにアップシーツ、そしてさらりとした白いコットンシーツ。寝室が深海になるイメージだった。
 もう幾度も共にした新しいベッドのシーツをはいで、琴子は洗濯を始める。洗濯の物干場になるベランダがあるのは、あの団栗と百日紅の風がある裏側。洗濯ランドリーと直結していて使いやすいけど、日当たりは店舗側にあるため、生活感を見せてしまうベランダは裏側にあつらえてしまい、ちょっと日陰。それでも夏なのであっという間に乾くし、とても涼しい。
 シーツを洗い、新しいシーツに替え、また寝室が爽やかになる。琴子も自分のもう一つの場所になりそうな部屋を見て、どこかほっとする。
 この寝室のクローゼットにも琴子のお洒落着も数着、家事用のラフな服、そしてランジェリーもサンダルも。徐々に置いていくようになって増えている。洗面所には琴子の化粧品や、コンタクトの手入れ用品、歯ブラシに、お気に入りのタオルまで……。本当に、セカンドハウスのように自分の物が増えていた。
 ――『琴子が帰っても、琴子がいなくても。琴子がどこかにいる空気を感じている』。
 英児がそう言って満足そうに、新しくした寝室のベッドでくつろいでいる。
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