ワイルドで行こう

 奥部屋の寝室からは海は見えない。でも、団栗の葉がさざめく音と涼しい風が入ってくる。窓にはよく星と月も見える。淡いライトの中、あるいは外からの青い夜明かりだけで、大きなベッドで素肌になった二人は奔放に愛し合う。
 今日もその寝室で、琴子はポロシャツに七分丈のデニムスキニーパンツに着替え、家事を始める。
 
 お昼の時間になると、順次二階に冷やし中華を取りに来る整備員達。矢野さんもご機嫌で平らげてくれ、休憩室で食べ終わった食器もきちんと二階に返しに来てくれる。
「なあなあ、琴子。あれでアイスコーヒーとか作れるのか」
「出来ますよ。また休憩する時に教えてください」
 また喜んで仕事に戻っていく矢野さん。英児も続いて二階の自宅で食事を済ませ、ひととおり従業員の昼休みが落ち着いた頃。琴子は武智さんと一緒に事務所の隅にあるパーテーションで仕切られているだけの小さな休憩室にそのエスプレッソマシンを設置してみる。
「コーヒーの豆代がかかりそうだね」
 いざ使ってみて、それは美味しいが、業務用としてどうかという冷静な意見の武智さん。
「そこよね。カップにワンタッチセットができるお手軽なドリップコーヒーも浸透してきているものね。いま契約している業務用レンタルサーバーの月額の方がお手頃かもしれないわね」
「でも。この本物感はちょっと気分いいよね」
「そこは流石に、気分良くなるわよ。だけど家庭用でも同じなの。結局、コーヒー豆を揃えなくちゃならないし、一人で飲むには多すぎるし……」
「事務所用か、お客さん用にするか。豆を買ってきてある程度使ってみてから、コストの計算してみる」
「じゃあ、私が豆を適当に選んできてもいい?」
「うん。じゃあ、琴子さんに頼むよ。そこのあたり俺達、ちょっと疎いから」
 武智さんと事務所での接客用品などについて、最近はよく話し合う。車に夢中な男達が気にしない部分は、今まで武智さんが気を配ってきたとのこと。

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