ワイルドで行こう
「正しい高位を計測するため、車体を水平に停車させている状態で計測。これは水平時の高位ではないので、ついてるオイルは一度拭き取る」
彼の手にはペーパータオル。オイルがついたゲージを拭き取ると、また元の差し込み口へとギュッと戻した。
「計測前にゲージについている油は走行後のもので、水平時の物ではないので、拭き取ってもう一度ゲージをタンクへ戻す。これをしないで、最初引き抜いた状態の物で計測しないように」
そしてもう一度、ゲージを引き抜く。
「この目盛りが上限、下限。この下限ライン付近を示していたら残量が僅かということ。それをチェックするゲージなんだ」
琴子も頷く。
「だいたいがディーラー点検でオイル交換など一手にやってもらっている人がほとんどだと思う。でもそれ以上に車を気にかける車好きの男達がどうやって大事にしているかを、琴子には知っていてもらいたいんだ」
何故、英児が自ら教えてくれたのか。やっとわかって琴子は嬉しくなる。『心臓のエンジンまで大事にする、車好きの男達』。細かな点検に、様々なカー用品を駆使する。女にはわからないかもしれない。でも知っていて欲しい――。車屋の女だから。そういう意味にとっても良いのだろうか? だとしたら、とても嬉しかった。琴子が知りたかったことを、店長の英児から教えてくれたから。
「次、ラジエーター。これはエンジンを冷やす冷却水が入っている。圧があるのでエンジンが熱いうちにこのキャップを開けるのは注意。これも交換する目安があって……」
そんなエンジンルームの管理や部位、そして手入れの方法や交換の目安などを教えてくれる。
龍星轟のキャップの影から覗く真剣な眼差し、紺色作業着で真摯に車に向かう男。滝田店長。
その顔で教えてくれる英児の言葉にひとつひとつ頷き、琴子も真剣に聞いて覚える。
これが英児の、車への気持、姿なのだと――。
こうして琴子も徐々に龍星轟の空気に溶け込んでいける感触を噛みしめていた。
従業員ではないけれど、このお店が好き。この店に彼の自宅に来たら、ちょっとだけお手伝い。出来る分だけ。そして出しゃばらない程度に。それを従業員も受け入れてくれていた。
そしてなによりも、愛する男の精神に寄り添っていける実感があった。