ワイルドで行こう
やがて英児が、机の上に置いていた紙袋から何かを取り出した。それを机の上に広げ、琴子に見せた。
「これ。俺達、龍星轟メンバーから琴子へのプレゼント」
それが何かわかった琴子は――。驚きすぎて息が止まったほど。滝田店長の彼を見上げて固まってしまう。
『プレゼント』。それは、龍星轟の作業ジャケット一式とキャップ帽だった。袖にはちゃんとあのワッペンがついている。
「レディスサイズで初めて注文した。長袖、半袖。そしてポロシャツも特注してみた。キャップも琴子の小さな頭に合うはずだから」
龍星轟の男達だけが着られるジャケット。今までは矢野さんや英児から借りて、ぶかぶかのジャケットを羽織り店先に出ていた。でも、これは琴子サイズ。琴子用!
「うそ、どうして。いいの? だって、これ……私みたいな素人……」
英児はちょっと恥ずかしそうにして琴子と目を合わせてくれなかった。でも、武智さんも矢野さんも、清家さんも兵藤さんもにっこり琴子に微笑んでくれる。
「琴子。遠慮するな。おっちゃん達全員で相談して決めたことなんだからよ。受け取ってくれよ。お前が龍星轟を好きになって大事にしてくれる気持、おっちゃん達にも充分伝わってきたからさ」
矢野さんの言葉にも、琴子は呆然とするばかり。それでも今度は英児から、龍星轟の制服一式を差し出してくれる。
「べつに従業員になってほしいわけじゃないんだよ、俺達。ただのお洒落で着てくれても嬉しいし、ただ、琴子の気持も俺達と一緒にこの店にある印というか」
琴子もやっと、英児のデスクへと歩み寄り、ワッペンがついている上着を手に触れてみる。
初めて見たのは、あの桜の夜。薄汚れた英児の上着に嫌悪を抱いたほどだった。でもそれは、男の汗と信念をしみこませた上着だと知った。車好きの男達が憧れるワッペンがそこにあると後で知った。でも、今は琴子の目の前にも……。
その上着を英児が手に取った。半袖の上着。襟を持って広げる。
「着てみろよ」
言われて。まだ戸惑うけど、琴子はこっくりと頷き、店長の前へ。彼の胸元、そこで彼の長い腕が琴子を囲いながら袖を通させてくれる。