ワイルドで行こう
「お、ピッタリだな!」
矢野さんの笑顔。本当にピッタリだった。丈も、身ごろも、襟周りも。どこもぶかぶかじゃない。
「有り難うございます。すごく、嬉しい。大事にしますね」
礼をすると、 武智さんが拍手までしてくれて。すると矢野さんや、清家さんに兵藤さんまで。
「いやー、ますます。タキタの女っぽくなってきたねえ」
「最近、聞かれるよなあ。店長の助手席に乗っている女性は彼女なのかって」
「めんどくせーなー。もうカミさん候補だって宣伝しておけや」
矢野さんらしい物言いに、『急かすなよ。大事にしてあげてよ』、『そうだよ。急がなくてもいいじゃないか』などと整備士の兄貴二人。こちらは英児をよく見て、暴走する矢野さんを止めてくれる役目をわかっているようだった。
確かに。嬉しいけれど、あまりにも入り込みすぎるのも良くないかもしれない。ふとそう思うこともある。なによりも――。琴子はそっと英児を見た。やっぱりちょっと困った顔をしている。でも、琴子と目が合うと嬉しそうに微笑んでくれる。
「よかったな。琴子」
「英児さん、有り難う。あの、本当にいいの? 迷惑じゃないの」
「うん。似合っている。一緒に着てくれるようになって嬉しいよ、俺」
その笑顔に嘘は感じない。彼のそんな笑顔に歓迎されると、琴子もちょっぴり涙が滲んでしまうほど感動のプレゼント。
でも戸惑う顔を見せていたのは何故か。琴子にはちゃんとわかっている。
恋人の彼女が歓迎されて嬉しい彼氏としての気持ちは本物。でも、もし今の幸せな日々がある日突然なくなったら……? その落差は以前の苦い思い出以上になることだろう。英児はそれを恐れているから、全開で喜べないでいる。
そんなことになりたくないと琴子も思っている。なるものかと。でも、そこは男と女。何が起きるかわからないことを、この歳になると苦いほど知り尽くしているから。だから最後の大きな一歩がなかなか踏み出せない警戒してしまうものなのだ。
もう若さという勢いがないからこそ。私達は思いっきり喜べないでいる。どこかで冷めた心を保って。そうして今ある愛を守ろうとしているのだって。