ワイルドで行こう
半同棲のような日々。当然ながら、ふたりで愛しながら入浴を楽しむこともあった。だがある時、琴子が一人でゆったり入って念入りに『女の準備』をしてから英児の元へ行くと、彼が『全然、違う』と喜んでくれた時があった。肌の温度から、匂いから、柔らかさ。全てが違うと彼は言う。週末の念入りなお風呂なんて、女の子はよくすること。『今まで通りの入浴』をしただけなのに、また英児特有の感覚触覚なのか彼は『すごく違う』と繰り返し琴子の肌をいっそう愛してくれる。『待っている時間もいいな。琴子が俺のために綺麗にして、こんな身体になって来てくれると思うとスゲーそそられる』。そう言ってこのごろは『俺、待っている』と寝室で大人しく待っていてくれる。
「こっち、来いよ」
ナイトテーブルにある灰皿に煙草を消した手を、裸になった琴子にさしのべる英児。
いつもならここで、裸でも厭わずに彼のところへ抱きついてしまう琴子だけれど。今日はちょっと違う気持――。
「琴子?」
ベッドサイドで、琴子は素肌に一枚の上着を羽織る。今日贈ってもらったばかりの『龍星轟の半袖ジャケット』。
裸になった身体にこれ一枚。それを羽織った姿で、大きなベッドで待っている彼のもとへ琴子は向かう。
今夜の琴子は英児の傍に寝そべらず、枕に背をもたれくつろいでいる彼を大胆にまたぐ。英児の身体の上、膝の上に座り込んだ。
「なんだよ。どうしたんだよ、こんなこと」
白い身体に紺色のジャケットを羽織っただけの女が、自分の身体に大胆にまたがっている。そしてその女が英児を見下ろし微笑んでいる。
どうして――と問いながらも、英児はもう嬉しそうに琴子を見つめてくれる。
「これで愛して。これを着たまま愛されたい」
そう言うと、英児はまたがっている琴子の胸元へと抱きついてきた。