ワイルドで行こう
16.いつ、帰ってきた。
とりとめなく愛し合った翌朝は気怠い。
さらに、真夏の朝は日射しも蝉の鳴き声も、そして肌にまとわりつく汗が浅い眠りを妨げる。
「う……ん」
気持がよいのはサラサラしている新しいシーツと。そして甘い疼きが鈍く続く、昨夜愛された痕――。
寝返りをうつと、ちょうどそこが日射しが入っているところ。まどろむ瞼に突き刺す真っ白い光。琴子は余計に唸ってしまう。うっすらと目を開けると、隣で寝ているはずの彼がいなかった。
それでもここは彼の自宅だからどこかにいるのだろうと思い、日陰に寝返りまたうとうと。
そのうちに近くで鳴いていた蝉がどこかに飛んでいった。その代わり、遠くシャワーの音が聞こえてくる。
ああ、シャワーを浴びていたのね。……私も、浴びたいな。汗だらけ。それに、昨夜愛されて濡れたまま。
それでもうとうと。シャワーの音がやみ、奥のバスルームからこの寝室前の廊下をリビングへと向かう足音。彼はもう起きて動いている。
じっとりと湿気た黒髪をかきあげ、琴子はやっともっさりと起きあがる。
素肌のままだし、髪も乱れている。こんな寝起きの顔、誰にも見せられない……はず。
「起きたか、琴子」
寝室のドアが開き、そこでパンツ一枚、上半身裸で濡れ髪の彼が現れる。
「……起きた」
英児が笑う。初めての寝起き……見られた。でも琴子も笑っていた。この野性的な彼にとっては、むちゃくちゃでぼさぼさになっている姿ですら『自然』なんだと愛してくれると知っているから。
「これ。食べるだろ」
上半身裸のシャワー後の男。その男の片手に白い皿とグラス。それを彼がベッドテーブルを出して琴子の目の前に置く。
白い皿にきちんと切り分けたオレンジと、琴子が好きなアイスティー。
「ありがとう……」