ワイルドで行こう
独身の男が事足りる程度の家事で暮らしてきた彼だったから、彼女の幅広い家事を喜んでくれるこの頃。それでも、彼女が泊まった朝は男の彼からこんなことしてくれるなんて……。ちょっと感激の琴子。
もさっとしたまま、裸のまま、琴子は手を伸ばしひとまずグラスのアイスティーを飲んだ。
冷たくてすっきりして目が覚める。この家に通うようになって『自分用』に作り置いているドリンク。それを彼が目覚めの一杯として持ってきてくれる。
そして英児は、そんな琴子を見つめて笑っている。まだ寝ぼけている琴子の傍、ベッドの縁に腰をかけた。英児の手が、起きあがったまま丸裸でベッドでグラスを傾けている琴子の黒髪を撫でる。くしゃっと乱れてもつれている黒髪を優しくなおしてくれる手つきに、琴子は胸が熱くなってしまう。
寝起きの恋人を、愛猫のように撫でてくれるけれど。英児の笑みが、どうしてか申し訳なさそうに少しだけ曇ったのを見る。
「結局、お母さんに甘えちゃったな」
その一言に、琴子も少しだけ黙ってしまう。
「大丈夫よ。母から『好きにしなさい』と言ってくれたんだから」
「うん。まあな、そうなんだけど……」
娘を預けてもらえた男として、でも複雑な心境のよう。わからないでもない……。琴子も同じ心境でもあるから。
少し前。週末も頑張って反対方面郊外の空港町まで通う娘を見て、母がついに『週末ぐらい、好きにしなさい』と言ってくれた。
土日は必ず琴子から、英児の自宅へと通う。そして彼のお店を手伝ったり、自分も車に触ってみたいと頑張って磨いてみたり。そして夜はやっと彼とデート。夜遅く帰ってきて、せっかくの土曜日なのに疲れ果て、でも翌日日曜も同じように出かけて同じ事をして疲れて帰ってくる。そして月曜日……自分の仕事に出勤。
そんな娘のハードスケジュールを暫く眺めていた母が『あんた。無理しないで少し休みなさいよ』と案じた。でも娘は行ってしまう。だけれど平日は恋人と会っても必ず帰ってくる。その内に『週末ぐらい、ゆっくり出来るよう好きにしなさい。平日帰ってくるなら、お母さん一晩ぐらい平気だから』と言い出したのだ。それしか言わなかったが、『一晩ぐらい平気。好きにしなさい』の裏の意味は琴子にもすぐに通じた。