ワイルドで行こう

「盆休みはどうなっているんだよ」
 でも。『待っているだけでは退屈なんだもの』。彼女がそう言い出しそうであるのを察知してたのか、英児は琴子の次の言葉を強く遮った。
「俺、琴子の休みに合わせて、この店も盆休暇にするつもりだから。店の奴等にもそろそろスケジュールを教えてくれよと、せっつかれているんだけど。わかっている予定だけでも教えてくんねえかな」
 お店のみんなに関わる――と聞いて、琴子はすぐに枕元に置いていた白いハンドバッグを手に取った。
「そんな……。お店のお休みまで私に合わせてくれなくても……」
「納期期日に管理されている琴子より、俺の方がこの場合は調整がきくだろ。そろそろ聞いておこうと思ったんだ」
 慌ててスケジュール帳を取り出す。それをさっとベッドテーブルに開いて、八月の予定を眺める。
「ううんとね……」
 目を凝らした。コンタクトをしていないので、自分で書いた細かい文字がぼんやり。今度はバッグから眼鏡ケース。可愛い花柄と小鳥のお気に入りのケース。そこから眼鏡を取り出してかける。
「うん、大丈夫。暦通りに迎えられそう。迎え火から送り火まで」
 答えると、英児がじいっと琴子を見て黙っている。
「なに……」
「前から思っていたんだけどな」
 すごく真剣な顔。なにを言うのだろう。何を言われるのだろう。手伝いすぎだって、今日はなにもしないで俺を待っていろと今日こそなにかきつく言われるのかと琴子は構えた。
 英児が、やってくれともやるなとも、どちらとも言わなかったことを琴子も気にしていた。まるで本当に店長の目で、矢野さんに教わったとおり、新人の琴子がすることを『ひとまず眺めて様子見。判断はそれから』というスタンスで黙ってみている――そう感じていた。
 もしや。今日がその『判定の日』?

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