ワイルドで行こう

 でも昨日は、『琴子も龍星轟の仲間だ』とジャケットをプレゼントしてくれたばかり。それに、ジャケットを着たままの琴子を愛してくれたし、彼も嬉しそうにして『タキタの女だって誰に言っても良い』と言ってくれたのに?
 どうして。なにを言うの? 琴子はドキドキしながら、真剣な眼差しの英児を見つめ返すだけ……。それでも英児はずっと琴子をじいいっと穴が開くほど見ているから、間が持たなくなった琴子は、最後の一個になったオレンジをつまんでみる。
 やっと英児が口を開いた。
「エロいんだよな。それ」
「は?」
 英児が琴子を指さす。頭から丸裸の琴子をなぞるように。そして最後、琴子がかけてる眼鏡を指した。
「俺が憧れているOLのお姉ちゃんが、エレガントな手帳を広げて、乙女チックな眼鏡ケースから眼鏡をかけて。手帳を眺めて予定を言う。なのに、丸裸」
 やっと琴子もはっとする。確かに。裸で眼鏡。ぼさぼさの黒髪で、汗ばんだ素肌で淫らなまま。彼が大好きなOLのお姉ちゃんが、OLのような仕草をして、でも実は裸。琴子は見た、愛する彼の目がきらっと野性的に輝いたのを……。
「琴子」
「きゃっ」
 気がついた時にはもう遅い――。手早い野獣が、ベッドにあがると琴子に抱きついてそのまま押し倒していた。
「絶対に、俺になにかしろって誘っているだろ」
 押し倒されてすぐ、頬に耳元に首筋とあちこち吸い付かれる。
「もう、……英児っ」
 琴子の手には、最後のオレンジ。それを食べたいのに。愛されるならどこかに置きたいのに。でもここで手放したら新しく替えたばかりの白いシーツを汚してしまう。でも握っていると彼に抵抗が出来ない。

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