ワイルドで行こう
気怠い朝の睦み合いの後、琴子もしっかり汗を流して、いつもの自分に戻る。
黒髪を綺麗に整え、メイクをして、休日用のお洒落をする。今日は真っ白なシフォンブラウスに、ベージュのショートパンツ。それにヒール高めのエスニック風サンダル。
寝室で身支度を終えリビングに行くと、煙草片手に新聞を読んでいる英児が待っている。
「支度できたか」
「うん。お待たせ」
彼も、襟と袖口を紺色ラインで縁取っている白いポロシャツにデニムパンツと、いつもの姿だけど夏らしく爽やか。トワレをつけたばかりなのか、英児が動くだけで男っぽい香りが窓から入ってくる風にのって広がる。
二人で一緒に、既に開店している龍星轟事務所へと降りる。英児からドアを開けた。でも事務所には武智さんだけ。
「うっす、武智。おはようさん。午後までよろしく頼むな」
「了解。いってらっしゃい店長。おはよう、琴子さん」
英児宅に初めて泊まった女、その女の朝の顔。それを見られた気がして琴子はわずかに躊躇したものの、武智さんの眼鏡の笑顔があんまりにも爽やかなので自然に微笑んだ。
「おはようございます。店長をちょっとだけお借りしますね」
「あはは。土日に半休取るのは、俺も他のおじさん達もよくやっているから気にしないで。せっかくの日曜休暇だから楽しんできてたらいいよ」
こういう人なんだなあと、いつものさりげない気遣いが武智さんらしい。
英児はデスク後ろの壁に備えているキーを眺めている。
「今日はどの車にするか。琴子はどれに乗っていきたい」
迷わずに答える。
「ゼット!」
「よし」
英児がフェアレディZのキーを手にする。
店先に銀色の車が出てきてから、琴子も事務所を飛び出す。
「おう、琴子。おっちゃんになんか美味いもん買ってきてくれよ」
「はーい、わかりました。店長をお借りしますね。行ってきます」
ガレージから叫ぶ矢野さんに手を振って琴子は助手席へ。