ワイルドで行こう
「……でも、反省。これからは店長を休ませてしまうような、行きすぎた頑張りはしません」
嬉しさ反面、どうしようもない申し訳なさも。
「まあ、これからはたまには休む姿を見せた方がいいかもな。良い意味で『適当にやっている』ところを、琴子だからこそやってもいいと思うんだよ。店のヤツらも琴子はやる気になったらとことんやる女だって充分理解してくれてるみたいで。俺もさ、嬉しいんだけど。頑張り屋の彼女だって言ってもらえて」
「うん、わかりました。皆さんが安心してくれるようにやることにするわね」
「そっか。安心した。琴子だって自分の仕事を持っているんだからさ。平日の仕事中に倒れたとかされちゃあ、俺が三好さんに怒られてしまうもんな。それ困る。龍星轟には行くなとか言われそうで。三好さんにとっても、琴子は大事な戦力なんだからさ。力使うところ間違えるなよ」
「はい」
やっぱり、彼はずっと大人だなと琴子は痛感。どんなにプライベートで悪ガキみたいに琴子にふざけてばかりいても、大人としてどうするべきか、押さえるところちゃんと押さえて。彼女が道筋を逸れそうになったらちゃんと見守って軌道修正のアドバイス。青空の国道を行くゼットの助手席で、琴子もほっと一息。
ローからハイへ、英児の手がギアを軽やかに動かす。空港沿いの国道を唸るゼットが真っ直ぐ走る。
彼と一緒にいるのは、この力強く走る車のがっしりとしたシートに座っているのと同じような気持になる安心感。
そして今日はこの素晴らしい夏晴れの中、どこへ連れて行ってくれるのだろう。いつも知らないところへ連れて行ってくれる彼の運転に任せて、琴子の期待もふくらむ。
「さって。昼飯はあそこで食うか」
いつもは郊外へ遠い町へと向かう傾向がある英児のドライブコース。なのにゼットがウィンカーを出したのは、この中心街のデパート駐車場。
あら? なんだか英児らしくないんだけど?
そう思ったけれど、銀色のフェアレディZは大手百貨店の立体駐車場へと入ってしまった。