ワイルドで行こう

 すっごい拍子抜け。日曜の昼前、人が多い百貨店の中を彼と歩く。こんなふうに街中を英児と歩くのは初めて。……らしくない、絶対にらしくない。
 ああ、でも久しぶり。と琴子は辿り着いた百貨店内を見渡す。英児と出会ってから、こうした街中に出かけなくなったし、買い物もしなくなった気がする。
「実は、昼飯が目的ではないんだ」
 え。それなら、どうしてここに連れてきたのよ。
 そう言おうとしたら。この人混みの中、英児からぎゅっと手を繋いできたので、ぎょっとする琴子。嬉しいと言うより『なにをする気』という気持。真顔で黙っている英児の目が、琴子と手を繋いでデートなんて浮かれ眼差しではなかったから。
 案の定、強く手を引かれてどこかに連れて行かれる。
「え、なに。なに」
 英児はエスカレーターにさっさと乗って降りていく。人々の隙間をぬって迷いなく進む英児が、琴子の手を引いて辿り着いた場所。そこを知り、琴子は唖然とする。
 そこは、琴子いきつけのショップ。英児と初めて出会ったときに汚されてしまったパステルグリーンのコートを買ったところ。そして英児が替わりのトレンチコートを買い直してくれたお店。
「え、どうして」
 本当に何をしにきたの? 琴子はまだ飲み込めない。
 でも男の英児から堂々とショップへと入っていってしまった。
 見慣れたショップのスタッフが笑顔で『いらっしゃいませ』と言った途端、英児と琴子を見て驚いた顔。
 もう、それだけで琴子は逃げ出したくなった。大好きなお店だけれど、でも『いきさつ』を知られるのも説明するのも、たとえただの客でもそれはちょっと気恥ずかしいし、照れてしまうから。
 それなのに、英児は。
「その節はどうも」
「いらっしゃいませ。え、やはりコートを汚してしまった女性というのは琴子さんだったということですか。では、あれから……?」

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