ワイルドで行こう
お洒落に決めている顔見知りのスタッフが、もうそれだけで察してくれた様子。
「おかげさまで。こちらのコートのおかげで、ね」
全ては言わずとも、英児が意味深に笑っただけで、ショップのスタッフが『ええー、でも素敵!』と騒いだ。
「琴子さん、おひさしぶりですね。うちの商品がご縁を結んでくれたなんて嬉しい。どうぞご覧になっていってください」
この時期、既にバーゲンで琴子もたくさん買い漁りに来るところなのに。今年はまったくその気になれず、そのままだった。
それにしても。英児は何故、急にこのお店に来たのだろうか。
いちいち店先で躊躇していると、男の英児の方がショップの中をうろうろ。奥の壁に並べられているワンピースを彼自らが眺めている。しかもそのうちの二、三着をハンガーごと取り出して、店の接客用ガラステーブルへと置いてしまう。
「これ、琴子が好きそうだな。それから、あれもかな」
そう言って、彼からどんどん、棚にたたまれているカットソーからブラウス、そしてブティックハンガーに吊されているスカートまで次々にテーブルへと持っていく。
「すごい。あの、本当に琴子さんが選んでいるみたい……で……」
琴子もびっくり。もし、これ全部買えるなら本当に全部欲しいというデザインの、琴子好みの服ばかり。
そして英児が選ぶだけ選んで琴子に言った。
「だろ。俺、わかるんだ。琴子がどんなものが好きか。これ俺が買うから、琴子も好きなもの選べよ」
全部俺が買ってやると言い出して、琴子は飛び上がる。
「ま、ま。待って。服ぐらい自分で買うから!」
「言うと思った。だから黙ってお前を無理矢理ここに連れてきたんだよ」
「どうして急に。こんなにいらないわよ。他にもたくさん持っているんだから」
「だってさ。お前、俺と付き合うようになってから、服を買っていないだろ」
「いつだってちゃんと欲しいときに買っています。ただ、今は、ちょっとだけ……」
貴方といる時間に夢中だったから……。
とてもじゃないけど、こんな人目があるところでは言えない。