ワイルドで行こう
「だってな、本当に俺が好きな服を琴子が好きなんだもんな。ちょっと試してみたかったんだよ。どれだけ俺と琴子の好みが合っているかってこと」
「それだけのために?」
これは一種の遊びでやったのかと琴子はますます唖然とさせられる。
でも少し違ったようで。英児はあの優しく滲む目尻の微笑みを静かに琴子に見せた。
「ジャケットは龍星轟スタッフから。これは、事務所の接客用品を改善してくれたり、店の代車とか俺の車を磨いてくれた彼女へのボーナス、バイト代。それでいいだろ。これぐらいはお前、働いてくれたよ」
「え、そんな。そんなつもりでやったんじゃないもの。好きでやったのに」
それでも即決の男が、自分が選んだ服から何点か選り抜きスタッフに差し出す。接客する隙もない決断に、スタッフの彼女も口を開けて呆けている。
「琴子が選べないなら、これは絶対に着て欲しい服を俺が勝手に買うからな。これだけちょうだい。俺が彼女に着て欲しいから」
「あ、はい。えっと、お包みいたしますね。こちらにお座りになってお待ちください」
そのガラステーブルにある猫足の椅子へと促され、英児は満足そうに座り、琴子は腑に落ちないまま隣に座った。
スタッフの彼女がタグの半券をちぎり、電卓で会計をする。英児は財布からクレジットカードを差し出してそのまま支払ってしまう。
スタッフの彼女が、ショップ外にあるフロア共通のレジへと向かっていった。ショップの中、二人きりになる。
「あの、有り難う。本当に着たい服ばかりでびっくりしちゃった」
急に座っているソファーでわざとらしくふんぞり返った英児がニヤリと笑う。
「まあ、なんていうの。作業着で油まみれの俺だけど、洒落た店で男の甲斐性もやってみたいわけよ。ちょっとだけ良い気分にさせてくれよ」
また、嘘。洒落た店で男の甲斐性を格好良くやってみたかったなんて。貴方はそんな男じゃない。甲斐性をここで感じる男じゃない。でもそう言えば、琴子が受け取ってくれると思っているのだろう。今度は琴子がわかりすぎてしまう。そんな彼の優しさとか嘘のつき方が……。