ワイルドで行こう
「明日から日替わりで着て、会いに行きます」
「よっしゃ。楽しみ。脱がすの」
「ほら。すぐにそういうこと言うの。本当はそれが目的なんじゃないのっ」
「あはは。そうです。それも目的です」
開き直ったので、琴子は思わず彼をどつきたくなった。でも英児はケラケラと笑って楽しそう。結局そうして、悪ガキの英児に茶化されたままお終い、琴子も笑ってしまっている。
「買い終わったら、海まで走って外で昼飯食うか。やっぱここの店より、俺は外の店がいい」
「私も。外の風と緑の中に行きたい。時間が大丈夫なら、漁村のマスターのピザが食べたいな」
「大丈夫だろ。間に合う。じゃあ、そこで決まり」
初めて一緒に食事をしたお店、そして……その夜、初めて。それを思い出したのか、二人の眼差しが熱っぽく見つめあう。賑わいの中だけれど、そっとテーブルの下で手と手を繋ぎ合う。
「お待たせ致しました。こちらにサインをお願いします」
スタッフの彼女が帰ってきて、英児がボールペンでサインをしていた時だった。
「お忙しいところ、失礼致します」
黒い制服のワンピースを着込んでいる他ブランドショップの店員が入っていた。
「あ、お疲れ様です。海藤店長」
すっとした涼やかな佇まい、きりっとした横顔。一目で一階下のプレタポルテにあるショップスタッフだと判る凛々しい女性。所作から雰囲気からハイブランドスタッフの品格を感じさせた。
だがそこで英児のサインをするペン先が止まったのを琴子は見た。彼がその女性を座っているソファーから見上げる。