ワイルドで行こう
*スカイラインで、迎えにきて。

17.似たもの同士。似すぎて俺達は駄目になった。


 目が合わせられない男と女の間にいるだけの琴子。二人の間には見えない隙間風が通っているようにも見えた。
「お待たせ致しました、海藤店長。こちらです」
 いつも琴子と一緒に服を選んでくれる彼女が、黒い制服ワンピース姿の『海藤店長』にフリルのスカートを手渡した。
「では、お借りいたします。もし共に販売できた時には、お知らせいたしますので、そちらのレジでの計上をお願いいたします」
「承知いたしました。よろしくお願いいたします」
 元婚約者の男と何年ぶりに再会したのだろうか。なのに、彼女の表情は一瞬の吃驚のみで後はまったく崩れず凛々しい表情を維持していた。その冷静さというか、冷徹さに、琴子は圧倒されている。動揺はどこにもみられない。
「失礼いたしました」
 『お客様』との間に割って入った故か、『海藤店長』が会釈をして踵を返す。
 いつものショップの彼女がちょっと緊張している様子も見て取れる。おそらく格上のブランドショップの店長が自らやってきたからなのだろう。
 海藤店長が着ている制服がどこのショップのものか、琴子でも知っている。一階下のプレタポルテ、壁側に大きな店構えで君臨する国内大手メーカーのトップブランド。大人の女性が上品に着こなすためのブランドで有名。客層はセレブなマダムに、大人のキャリアウーマン。琴子などまだ着こなせもしない大人のブランド、そしてたぶん……このデパートでトップを争う売り上げを持っているだろうそんなショップ。単価も琴子が着ている服より、プラス一万円から二万円は当たり前だろう。コートなど十万以上するに違いない。そんなショップの店長、だなんて。正直、茫然とさせられる。そして納得もした。『英児が選んだ女性だ』と――。
 その彼女が冷めた横顔で去っていく。英児はうつむいていた。のだが……。
「念願の店長になれたんだな。おめでとう」
 彼が肩越しにやっとかけた言葉に、やはり元婚約者故か、海藤店長の歩みも止まった。彼女もちらりと肩越しに見えるか見えないかの目線を返してくる。

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