ワイルドで行こう

「まあ、でも安心した。あいつがなりたいと言っていた店長になっていて」
「やり手……なのね」
「うん。昔から売れる販売員だったみたいだな。そして俺と似てるんだ」
 琴子の横で英児が笑う。でもその笑顔がどこか寂しそうだった。そしてやるせなさそうで、苦しそうだった。
 そんな英児が琴子をじっと見つめた。やっとまっすぐに目を合わせてくれる。そして人混みの中だけれど、琴子の肩をぐっと抱き寄せてくれる。
「大丈夫だよ。本当に終わっているんだ、俺とあいつ。それに痛いほど判っているんだ。『俺達、似すぎていて駄目だった』と。もし、やり直せたとしても同じ事の繰り返しなんだと痛いほどわかっている」
 さらに英児が琴子を抱き寄せてくれる。でも、指が食い込むほど肩を握りしめているいつもと違う『力』が、彼のなにかを揺さぶっている不安を物語っているよう。だから琴子を必死に捕まえているような気がしてならなかった。
「俺は琴子がいい」
 怖いくらいの真顔で言われた。
 でも琴子は複雑――。いつもきっぱりしている英児が、はっきり言い切ってくれたなら信頼できる。でも……。琴子は泣きたくなる。
 そんな怖い顔で言わないで。いつもの悪ふざけをしている悪ガキみたいに悪戯をしながら言ってほしい。
 『お前が可愛いから、今すぐこれに着替えて、脱がして遊ぶ』と――。そんな悪ふざけの少年みたいな顔で言ってほしい。
 それがいつもの貴方なのに――。

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