ワイルドで行こう
英児は気がついているだろうか。
彼の傷口が、どうやって出来てしまったかという本質的な理由。そこに近づくことを無意識に喋っていたと――。
初めて彼の過去を知った夜。つきあい始めたばかりの恋人に『なにがあったか』告げる気を見せてくれたが、実際に言おうとすると英児は苦しそうに躊躇っていた。だから琴子からは絶対に根ほり葉ほり聞いてはいけないと思っていた。
でも。英児が少しだけ言った。
――『似たもの同士。似すぎて俺達は駄目になったんだ』と。
きっと自分が好きなことには、とことん取り組んで極みを目指すアグレッシブでバイタリティーに溢れるタイプ。とても似た生き方の二人。だから意気投合して愛しあい、結婚を約束した仲になれたのだろう。
だけれど、少し違ったのではないかと琴子は予測する。
英児の完璧主義は『俺の生き甲斐である車屋』に関してだけであって、他は本当に大らかでさっぱりしている男。真面目すぎる琴子を傍で笑い飛ばして『どうってことねーよ』と軽くしてくれる。
でも。あの店長はもしかすると、何に対しても完璧だったのかもしれない。
何故なら。キャリアウーマンで、デパートでは花形の婦人服売り場でトップブランドであるショップの店長となれば、そこは経営者の英児同様の『完璧にこなすべくシビアさを持った女性』であることも、あの雰囲気からよく伝わってきた。
『似たもの同士』は、意気投合すればとてつもなく分かり合えるのだろうが。逆に諍いを起こせば、怒りも相乗効果で増幅するばかり、退けない気持ちも似すぎていて絡まりに絡まって泥沼に転じる要素も持ち合わせる。それぐらいは琴子にも予想が出来た。
そうか。なにかがあって、似すぎてどうしようもなくなって泥仕合になって別れた――。そんな予測が出来た。