ワイルドで行こう
市街を抜けてもうすぐ空港傍を通るトンネルを抜ける。そこを出てしばらくした路肩に、英児は琴子の願い通りに停めてくれた。
サイドブレーキを引いた英児の顔が、またしょぼくれていた。
どんなに空元気になっても、どうしようもなく引きずっている男の姿を、恋人の彼女に隠しきれなかった男の情けなさ――というところなのだろうか。
だけれど、琴子はそんな彼の顔をのぞき込む。
「こっち、向いて」
琴子に見つめられ、やっと英児が顔を上げたその瞬間、すぐ。琴子は助手席から、英児の首もとへ手を伸ばして抱きついた。
「琴子?」
両腕を彼の首に巻き付けて、彼の顔を確かめると、すぐ目の前。びっくりしている英児も琴子をただ見つめているだけ。その隙をつくように、琴子から英児の唇を強く塞いだ。
今日、『ん』と呻いたのは彼の方。いつもは彼から強引に奪う唇を、今日は琴子から果敢に奪う。勿論、唇をこじ開けて、男の英児の口中も舌先も奪うのは琴子の方。
「……琴子、」
だけれど。やがて全身が堅く力んでいた英児の身体が徐々にくったりと柔らかくなっていくのを琴子は感じ取る。そしていつもの熱くて優しい手が琴子の背中や黒髪をゆっくりと撫でてくれる。
なにかの緊張から解けたかのように、もう英児は笑ってくれていた。
「優しくて、あったかくて、柔らかい。俺はもう琴子から離れられない。これがなくなるなんて、嫌だ」
やっといつもの英児らしく、力強く琴子を抱きしめてくれる。女の首元肩先に顔を埋め、彼がそのぬくもりに溺れたいと何度も何度も額と頬をこすりつけてくる。琴子の目が微かに潤んだ。
「忘れているでしょ。何があっても傍にいるって。私、貴方に約束した」
『うん。そうだった』。柔らかな英児の息だけのささやきが琴子の耳元に落ちてくる。
「ずっと、一緒だ。これからも、ずっと」
琴子、俺の琴子。
切実な声で何度も耳元で囁かれる。
それだけでいい。琴子がまた唇を寄せると、今度は英児から強く熱いキスをたくさん返してくれた。