ワイルドで行こう
「休ませてやるから何か買ってこいって。相変わらず、気持ちが良い気遣いしてくれても表向きぶっきらぼうなんだよね。目に浮かぶよ。でも矢野君なら、フィッシュサンドよりホットドッグだよ」
矢野さんのこともよく知っているようで、琴子はますます驚いた。
そこで英児がちょっと笑った。
「あはは。だって、このマスターから見たら、矢野じいなんて『ガキ』だもんな」
「失礼な。そんなに年は離れていないよ。僕だけ年寄り扱いしないでくれる」
あの穏和なマスターが、ぷっと頬をふくらませる。なのに、それが愛らしく見えてしまい琴子はそっと笑ってしまった。
「俺から見たら、どっちも『じい』だよ」
「あーそう。やっぱり英児君に買っていってもらうことにしよう」
「だから、『買う』と言ってるだろ。親父も最初からそう言えよっ」
『はいはい』と、いつもの静かなお父さんの顔になってマスターが去っていった。
やっと二人で向き合って『いただきます』。サクッと頬張った音も、一緒に揃った。
「おいしー。もう隠れた名店ね」
この前は『焼きうどん』だったけれど、ランチは洒落ていてびっくり。それでも一発で気に入ってしまった。
琴子の喜ぶ顔に、英児の頬もほころぶ。やっと彼らしく砕けてきた気がする。やはりこのお店に無理に来て正解だったかもしれない。英児自身もわかっていたのだろうか。あのまま龍星轟に戻ってもつまらぬ事を考えるだけだと――。いつも通り、美味しいものは大口を開けて豪快に頬張る彼の姿が目の前にあって、琴子もほっとすることができる。
「俺がこの店を知ったのは、ずっと昔に矢野じいが連れてきてくれたからなんだ」
「そうだったの。じゃあ、元々、矢野さんの行きつけだったのね」
「矢野じいも走ってばかりいたらしいから、それでこの店を見つけたみたいで。開店当初からの客みたいなんだよな。いつも『不味い店』て言っていた」
こんな美味しいお店を『いつも不味い』と言うだなんて。流石に琴子も心外だが、でも……そこでおじ様のあの顔を思い浮かべると、なんだか『らしい』というか。